『イノベーションのジレンマ』は1997年にアメリカの経済学者であるクレイトン・クリステンセンによって書かれた本です。本著は世界中で大ベストセラーとなり今から20年以上に書かれた本であるにも関わらず、その理論は現在でも企業経営・経済理論に大きな影響を与えています。
今回はこの名著をわかりやすく解説していきます。
『イノベーションのジレンマ』が明らかにしたのは「一度覇権を握った超巨大企業が没落していく理由」です。資金・人材・ブランドのすべてが潤沢にある巨大企業がなぜ新興ベンチャー企業に負け、市場から追い出されてしまうのか」でした。クリステンセンはこれに見事な洞察を示しました。
「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」
まず、クリステンセンは「イノベーション」には2種類が存在するとしました。
いわゆる大企業はその潤沢なリソースを使い、自社の製品・サービスをどんどん改良していきます。開発・研究を続け、毎年のようにより優れた性能を持つ新商品をリリースしていきます。これは典型的な「持続的イノベーション」であり、大企業は必死に顧客の満足を満たそうとします。「大企業はその傲慢さ、怠慢さによって没落していく」というイメージは著者によれば完全に間違っているのだとされます。
大企業が破壊的イノベーションに敗北する理由
では「破壊的技術」はどこから現れるのでしょうか。
実は、大企業は「破壊的イノベーション」が起こる前からその破壊的技術の存在を知っています。彼らはその技術の存在をいち早くキャッチして、誰よりも早くその技術を研究して実用化し、顧客に「これが欲しいか」をリサーチしています。そこで往々にして顧客は「そんなものは要らない。それより今の製品を改善してくれ」と言います。結果、大企業は安心して既存製品の持続的イノベーションに取り組むわけです。
しかしここにイノベーションの「罠」があります。顧客は常に自らが欲しいものを知っているわけではありません。むしろ、かのスティーブ・ジョブズが言ったように顧客は常に自らが欲しい物を知っているわけではなく、実際にそれを見せられて初めて欲しいと気づくケースが多々あります。
これがイノベーションの罠です。破壊的技術は徐々に下位市場(低品質・低価格)から進出し始め、気づいた頃には大企業が持っていた市場のすべてを奪い取ってしまうわけです。
著者は大企業が破壊的イノベーションに敗北する理由を5つ挙げています。
上記が大企業が破壊的イノベーションに侵食される原因になるわけです。
またクリステンセンはこの実例として「ミニミル」を挙げています。
鉄鉱石を高炉や転炉を使って鉄を作る総合製鉄所は、鉄屑から製品を作る「ミニミル」に市場から駆逐された。
『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
ミニミルとは、大規模な高炉メーカーとは対照的に規模が小さい電炉で高効率な生産を目指す企業戦略であり、ミニミルは初めはギリギリの品質だったため、市場となりうるのは品質・コスト・利益率の点で最下層に位置する鉄筋分野だけだった。これは総合製鉄メーカーからすれば全く「旨味のない」市場であり、手を出せなかった。しかしミニミルはこの最下層から始め、持続的イノベーションによって徐々に品質を上げていき、最終的には鉄鋼業界の主となった。
こうして世界の覇権を謳歌していた鉄鋼業界の大手企業はミニミルを生業とするスタートアップにその地位を奪われました。
いかに破壊的イノベーションに対応するべきか
では、大企業はどのようにして破壊的イノベーションに対応すべきなのでしょうか。
著者は「破壊的イノベーションへの対応に成功した経営者がとった原則」として下記の5つを挙げています。
上記に共通するのは、破壊的技術をベースにビジネスを行うチームをまったく別の組織としてスピンアウトしたということです。「大企業は破壊的技術を上手く使うことができないから、より小さく新しい組織にその扱いを任せてしまおう」というわけです。
いかがでしたでしょうか。非常に長い本著もメッセージとしてはシンプルです。
しかしその内容は、今後より不確実性が増して破壊的イノベーションへの対応が求められる時代において、あらゆるビジネスパーソンに求められる内容ではないでしょうか。
ぜひ一読されることをおすすめします。
コメント