10分解説『イノベーションのジレンマ』

書籍要約

『イノベーションのジレンマ』は1997年にアメリカの経済学者であるクレイトン・クリステンセンによって書かれた本です。本著は世界中で大ベストセラーとなり今から20年以上に書かれた本であるにも関わらず、その理論は現在でも企業経営・経済理論に大きな影響を与えています。
今回はこの名著をわかりやすく解説していきます。

こんな人におすすめの記事です

・企業淘汰のメカニズムについて理解したい人
・読んでみたいけど難しそうでなかなか手が出せない人
・ざっくり内容を知りたい人

『イノベーションのジレンマ』が明らかにしたのは「一度覇権を握った超巨大企業が没落していく理由」です。資金・人材・ブランドのすべてが潤沢にある巨大企業がなぜ新興ベンチャー企業に負け、市場から追い出されてしまうのか」でした。クリステンセンはこれに見事な洞察を示しました。

「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」

まず、クリステンセンは「イノベーション」には2種類が存在するとしました。

2種類のイノベーション

1.「持続的イノベーション」
既存製品の性能を高める新技術。これには断続的なものや求心的なものから、少しずつ進むものもある。ただ共通するのは主要市場のメイン顧客が今まで評価してきた性能指標に従って、既存製品の性能を向上させる点にある。

2.「破壊的イノベーション」
これは短期的には製品の性能を引き下げる効果を持つイノベーションである。破壊的技術は従来とは全く異なる価値基準を市場にもたらす。一般的に破壊的技術の性能が既存製品を下回るのは従来の主流市場での話である。これは主力から外れた少数かつ新しい顧客に評価される特長がある。

いわゆる大企業はその潤沢なリソースを使い、自社の製品・サービスをどんどん改良していきます。開発・研究を続け、毎年のようにより優れた性能を持つ新商品をリリースしていきます。これは典型的な「持続的イノベーション」であり、大企業は必死に顧客の満足を満たそうとします。「大企業はその傲慢さ、怠慢さによって没落していく」というイメージは著者によれば完全に間違っているのだとされます。

大企業が破壊的イノベーションに敗北する理由

では「破壊的技術」はどこから現れるのでしょうか。

実は、大企業は「破壊的イノベーション」が起こる前からその破壊的技術の存在を知っています。彼らはその技術の存在をいち早くキャッチして、誰よりも早くその技術を研究して実用化し、顧客に「これが欲しいか」をリサーチしています。そこで往々にして顧客は「そんなものは要らない。それより今の製品を改善してくれ」と言います。結果、大企業は安心して既存製品の持続的イノベーションに取り組むわけです。

しかしここにイノベーションの「罠」があります。顧客は常に自らが欲しいものを知っているわけではありません。むしろ、かのスティーブ・ジョブズが言ったように顧客は常に自らが欲しい物を知っているわけではなく、実際にそれを見せられて初めて欲しいと気づくケースが多々あります。

これがイノベーションの罠です。破壊的技術は徐々に下位市場(低品質・低価格)から進出し始め、気づいた頃には大企業が持っていた市場のすべてを奪い取ってしまうわけです。

著者は大企業が破壊的イノベーションに敗北する理由を5つ挙げています。

大企業が破壊的イノベーションに敗北する理由

1.企業は顧客と投資家に資源を依存している
企業の資金の配分を実質的に決めているのは顧客と投資家である。結果的に、顧客がその技術を求めるようになる前に破壊的技術に投資することは極めて難しい。

2.小規模市場は大企業の成長ニーズを解決できない
成功している企業は、株価を維持し、社員の職務範囲が広がるチャンスを設けるために成長し続ける必要がある。故に大企業になるほど小さな市場を成長の原動力とすることに無理が生じる。

3.存在しない市場は分析できない
確実な市場調査と綿密な計画の後で計画通りに実行することが持続的イノベーションにおいて測りきれない価値を持つ。しかし破壊的イノベーションにおいて市場調査と事業計画が役に立った実績は殆どない。

4.組織の能力は無能力の決定的要因になる
組織の能力は「組織内リソースを価値の向上というアウトプットに変えること」と「組織の価値基準」に規定される。組織の能力を生み出すはずのプロセスや価値基準は、状況が変わると組織の無能力の決定的要因になる。

5.技術の供給は市場の需要と等しいとは限らない
高性能・高利益率の市場を目指して競争する内に当初の顧客の需要を満たしすぎたことに気づかない。そのため低価格の分野に空白が生じ、破壊的技術を採用した競争相手が入り込む余地ができる。

上記が大企業が破壊的イノベーションに侵食される原因になるわけです。

またクリステンセンはこの実例として「ミニミル」を挙げています。

鉄鉱石を高炉や転炉を使って鉄を作る総合製鉄所は、鉄屑から製品を作る「ミニミル」に市場から駆逐された。
ミニミルとは、大規模な高炉メーカーとは対照的に規模が小さい電炉で高効率な生産を目指す企業戦略であり、ミニミルは初めはギリギリの品質だったため、市場となりうるのは品質・コスト・利益率の点で最下層に位置する鉄筋分野だけだった。これは総合製鉄メーカーからすれば全く「旨味のない」市場であり、手を出せなかった。しかしミニミルはこの最下層から始め、持続的イノベーションによって徐々に品質を上げていき、最終的には鉄鋼業界の主となった。

『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン

こうして世界の覇権を謳歌していた鉄鋼業界の大手企業はミニミルを生業とするスタートアップにその地位を奪われました。

いかに破壊的イノベーションに対応するべきか

では、大企業はどのようにして破壊的イノベーションに対応すべきなのでしょうか。
著者は「破壊的イノベーションへの対応に成功した経営者がとった原則」として下記の5つを挙げています。

破壊的イノベーションへの対応に成功した経営者がとった5つの原則

①破壊的技術を開発し商品化するプロジェクトを、それを必要とする顧客を持つ組織に組み込んだ。
②破壊的技術を開発するプロジェクトを、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織に任せた。
③破壊的技術の市場を探る過程で、失敗を早い段階に僅かな犠牲で留めるよう計画を立てた。
④破壊的技術に取り組むために、主流組織の資源の一部は利用するが、プロセスや価値基準は利用しないように注意した。
⑤破壊的技術を商品化する際は、破壊的製品を主流市場の持続的技術として売り出すのではなく、この特徴が評価される新しい市場を見つけるか開拓した。

上記に共通するのは、破壊的技術をベースにビジネスを行うチームをまったく別の組織としてスピンアウトしたということです。「大企業は破壊的技術を上手く使うことができないから、より小さく新しい組織にその扱いを任せてしまおう」というわけです。

まとめ

・イノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」が存在する。覇権的大企業は破壊的イノベーションを用いた新興企業によってその地位を奪取されることが起こる。

・大組織が破壊的技術を開発・商品化する際は主流組織から専任の組織をスピンアウトすることが必要になる。

いかがでしたでしょうか。非常に長い本著もメッセージとしてはシンプルです。
しかしその内容は、今後より不確実性が増して破壊的イノベーションへの対応が求められる時代において、あらゆるビジネスパーソンに求められる内容ではないでしょうか。
ぜひ一読されることをおすすめします。

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